レクサスが世界に誇るプレミアムスポーツブラント“F”の提案者として、そして『IS F』『RC F』『GS F』の開発責任者として知る人ぞ知る存在の矢口幸彦さんは、実はミニカーにも造詣が深く、一時は1000台以上所有していたほどのミニカーコレクター。40年以上もの長きにわたって自動車業界に身を置いてきた矢口さんにとって、ミニカーはどのような位置づけにあるものなのだろうか? そこには……継ぎ目がないことを意味する“シームレス”というFのコンセプトにも通じるキーワードが存在していた。
実在するクルマがミニカーになるからこそ、
実車に繋がる妄想が広がる
「“F”というブランドの特徴は一般道も走れるし、サーキットも走れるーーつまり、Fとは一般道とサーキットをA点とB点に分けるのではなく、“シームレスに繋ごう”というのがコンセプトです。現在、一般道では高性能車が本来もっている高いパフォーマンスを十分に味わえない状況にありますので、普段は一般道できちっと使っていただいて、サーキットに来た時は思いっきり走りを楽しんでいただきたいという想いから、2009年からドライビングレッスンを開催し続けています。このドライビングレッスンの参加者内訳をみるとコアなリピーターが1/3、そこそこのリピーターが1/3、新しく来られる方が1/3とバランスがとれた構成になっていて、年齢も下は20代前半から上は70代と幅広い。加えて、参加していただいた皆さんに非常に楽しんでいただけているというのも、すごくいいことだと思っています。サーキット走行を終えると、皆さんニコニコしてピットに戻ってくるんですよね。もちろん、僕にとっても誰もが笑顔になれることが何よりも重要です」
自分が世に送り出したクルマをドライブすることで、誰もが笑顔になれることが何よりも重要と語る矢口さん。では、自分が世に送り出したクルマがミニカーになることに対しては、どのような想いがあるのだろうか?
「僕が携わったクルマをモデル化していただくことは“狙い”ですし、“やらなきゃいけないこと”だとも思っています。クルマ好きの人なら、机の上にいつも自分のクルマを置いておきたいという願望があるじゃないですか。仕事に疲れたら自分の机の上に置いてあるミニカーをニコニコしながら眺める。そんな時に、『今日はもう仕事をやめて、走りにいっちゃおうか!』とミニカーひとつで想像できたり、妄想できますよね。でも、妄想を広げるには、“実在するクルマがミニカーになる”ことが重要なんです。実在しない未来のクルマのミニカーには、『これ、どう使うの?』、『どういう世界のなかにいるの?』となるはずですからね。だけど、実在するクルマのミニカーなら、誰もが自分の世界を作って遊んでいただけると思うんです。ミニカーで遊ぶことによってクルマと接する時間が増えて、クルマがもっと好きになる。クルマがある生活において、ミニカーはすべてが繋がったもののなかのひとつとして存在していますので、僕のなかでは“実車は実車”、“ミニカーはミニカー”という線引きはありません。
ミニカーは動かないから、じゃあ、次はラジコンを動かしてみる、という選択肢もあるでしょう。最近は、ラジコンにカメラをつけて自分の目線で操縦できますよね。バーチャルであれば、お子様でもクルマで遊べます。その時に『楽しい!』となれば、次はリアルな世界でやってみたらどうなるんだろう? というステップを踏むはずですから、実車に繋がる“きっかけ作り”としてミニカーやラジコンが果たす役割はものすごく大きいと感じています。
また、ミニカーには開発ストーリーが作れるという側面もあります。IS F発売当時、京商さんからもIS Fを発売していただいた際に多くのバリエーションを作っていただいたのですが……実は今日、自分のコレクションも持ってきたんですよ。(笑)。1台はIS Fのパトカーで、もう1台が当時なかなか作っていただけないIS Fの試作車をニュルのパッケージで発売していただいたもの。これらのミニカーも、僕にとってはメモリアルという意味ですごくありがたかったし、こういう展開をしていただくとコレクションをズラッと並べるだけで我々の開発ストーリーが作れます。これらのラインナップをお客様にも集めていただくとクルマという“モノ”だけでなく、その裏にある“ストーリー”も共有できますよね。その結果がクルマにもっと愛着をもっていただけるとか、クルマをもっと好きになっていただけるという部分に繋がっていくのではないのでしょうか」
Lexus International
LIZ 製品企画 プロフェッショナル・パートナー
矢口 幸彦
1977年にトヨタ自動車工業に入社。クラウン、センチュリー、LS400、マジェスタ/アリスト、JZX100系ツアラー、プログレ、スープラといったトヨタを代表する商品の企画・開発に携わる。その後、レクサスセンターの提案及び立ち上げ、レクサスブランド戦略やプレミアムスポーツブランド“F”の提案・開発チームの立ち上げを行い、開発責任者としてIS F、RC F、GS Fを世に送り出した。
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